五條市五條新町伝統的建造物群保存地区保存計画

目次

  1. 保存計画の基本事項
    (1)保存計画の目的
    (2)保存地区の名称・面積・区域 
  2. 保存地区の保存に関する基本計画
    (1)方針
    (2)内容
  3. 保存地区内における伝統的建造物群を構成している建築物、その他の工作物及び伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するために特に必要であると認められる物件の特定
    (1)伝統的建造物
    (2)環境物件
  4. 保存地区内における伝統的建造物及び環境物件の保存整備計画
    (1)保存整備の考え方
    (2)保存整備計画
  5. 保存地区の保存のため必要な管理施設及び設備並びに環境の整備計画
    (1)管理施設等
    (2)防災施設等
    (3)環境の整備等 
  6. 保存地区内における伝統的建造物及び伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するため特に必要と認められる助成措置等
    (1)経費の補助
    (2)物資の提供、斡旋
    (3)資金の融資
    (4)技術的支援
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本文

平成22年6月1日制定
平成22年7月23日変更
平成23年10月28日変更
平成25年7月25日変更
平成26年3月31日変更
平成28年3月24日変更
平成31年3月28日変更

五條市五條新町伝統的建造物群保存地区保存計画

 五條市伝統的建造物群保存地区保存条例(平成21年1月条例第1号。以下「保存条例」という。)第3条の規定に基づき、五條市五條新町伝統的建造物群保存地区(以下「保存地区」という。)の保存に関する計画(以下「保存計画」という。)を定める。
​​​​​​ なお、本計画における用語の定義は、保存条例に準ずるものとする。

1.保存計画の基本事項

(1)保存計画の目的

 この保存計画は、五條新町の先人たちが築いてきた生活(生業)と環境を後世に残すため、住民の創意と熱意を尊重し、住民と行政が一体となり協力し合うことで保存整備を進め、五條市の文化的向上と活性化に資することを目的とする。

(2)保存地区の名称・面積・区域

保存地区の名称:五條市五條新町伝統的建造物群保存地区
保存地区の面積:約 7.0 ヘクタール
保存地区の区域:五條1丁目、本町2丁目、新町1丁目、新町2丁目、
二見1丁目及び二見4丁目の各一部(図―1)

2.保存地区の保存に関する基本計画

(1)方針
ア、地区の沿革

 五條市は奈良県の南西部に位置する。市のほぼ中央には吉野川が東から西へ流れ、この吉野川の河岸段丘上に、五條・新町の町並みが位置する。
 五條は、その条里制に由来する地名から古代の郡衙の地と推定されているが、町並みの成立は中世を起源とし、御霊神社御旅所とその前面に位置した小広場を核とする町場に想定される。一方、新町の町並みは慶長13年(1608)に松倉重政により築かれた二見城の城下町として成立したものである。
 二見城は元和2年(1616)に廃城となるが、その後、新町は城下町から在郷町へと転じて存続した。さらに五條では、寛永16年(1639)に伝馬所、寛政7年(1795)には代官所が設置されるなど、南和地域の政治経済の中心地となった。 
 こうした五條・新町では、有力商人が代官所の年貢代銀を管理する掛屋を勤め、これらを中心に三商売と呼ばれる金融業が近世を通じて営まれ、街道の宿場町としても繁栄した。
 近世中には五條では3回、新町で4回の大火があったことが知られるが、これらを乗り越えるべく、町並みには軒裏まで漆喰で塗込めた重厚な町家が続けて建設された。また、町並みは吉野川の氾濫による水害に、度重ねて遭ったことが知られ、これを克服すべく吉野川に面した屋敷地背面に石垣が築かれた。
 近代に入り、代官による支配が終焉を迎え、明治3年(1870)には伝馬所は廃止されたものの、近世を通じて育まれた五條・新町の町並みは継承された。大正・昭和期にかけても町並みには、良質な伝統的町家や近代建築が建てられ、吉野川沿いにも土蔵や離れ座敷が建てられ、水辺に面した石垣が形成された。
 昭和29年(1954)には、大川橋から五條の中心部を南北に貫くように国道168号が開通し、都心として機能していた小広場は失われ、小広場に面した御霊神社御旅所は講御堂寺の南側への移転を余儀なくされたが、これら以外では新たな道路は整備されず、五條・新町の町並みは近世以来の街路を継承することとなった。
 一方、昭和34年(1959)の伊勢湾台風により、町並みは大きな水害に遭い、これを契機に昭和50年(1975)には吉野川沿いに吉野川堤防が建設され、五條新町の水辺の空間は大きく変貌を遂げた。ただし、石垣は現在も一部残っている。

イ、地区の現況

(場所)
 五條・新町は、吉野川の北岸に位置し、東側に五條、西側に新町の町並みが街道に沿って広がる。五條では街道の裏手に、称念寺、講御堂寺、恵比寿社、宝満寺が境内を設け、新町では、西方寺が街道に参道を設ける。
 周囲は、北に金剛山脈、和泉山脈が聳え、南には紀伊山地の山並みが連なり、吉野川の水辺とともに優れた景観をみせている。

(地割)
 五條の町並みは街道と吉野川に直交する道を主軸とし、新町の町並みは、吉野川に並行に通る街道を主軸として広がる。地割は、間口が狭く奥行の深い短冊形を呈するのが基本であるが、間口・奥行が揃った均質的な地割と間口・奥行の不均質な地割を持つまとまりに大別できる。前者にあたるのが近世初頭に成立した新町の諸町で、後者にあたるのが中世に成立が遡る五條の諸町で、町並みの成立時期の違いが異なることを反映している。

(建築物の特徴)
 町家の主屋は、街道に面して間口いっぱいに建て、主屋背面には中庭を介して離れ座敷や土蔵を配するのが一般的であるが、一部に街道沿いに面して塀を巡らせ、敷地奥に主屋や離れ座敷を配した屋敷型の配置を持つものもある。
 町家の主屋は、つし二階建、本二階建、平屋建で、切妻造、平入が基本である。角地、河川、神社の広場に面して立つ場合は、入母屋造もみられ、屋根は本瓦もしくは桟瓦を葺く。
 平面は、片側の通り土間に沿って一列二室または一列三室に部屋を並べたものが多く、主屋背面側にさらに部屋を設ける場合は、下屋や角屋を延ばす。間口が大きい場合は、部屋を二列または三列に配し、また、二戸を並べて長屋建とするものや主屋脇に角屋を延ばし、街道沿いに塀と門を建てるものもある。
 主屋の外壁は、二階軒裏まで漆喰を塗込めた大壁造と真壁造に分けられる。一階開口部は、改変が多いが、古いものでは、本屋柱筋に建具を入れ、戸口を摺り上げ戸や大戸、その他の柱間を蔀戸、格子、出格子とするのが多く、新しいものでは、下屋柱筋に建具を建て込むものが多い。
 二階開口部の改変は少なく、町並みを特徴づける多様な立面を見出すことができる。大壁造の場合、梁尻を外壁面から突出させて塗り込め、二階軒裏の垂木の塗り込み形状、二階開口部とその縁の塗り込めの有無、二階隅柱を塗り込めて造り出した柱型の有無により、様々な立面を見出せる。
 二階開口部では単独窓をいくつか設けるのが基本で、連続窓のものは明治以降に建設されたものにみられ、後の改造で連続窓になったと推定されるものもある。
 単独窓の開口部は虫籠窓、外側に格子を建てた格子窓、窓枠を設けてガラス窓など建具を建て込んだ窓があり、江戸時代の町家は虫籠窓を基本とし、壁面に占める窓面積の割合は少ない。
 つし二階が高くなるものには、虫籠窓と大きな窓を設けて細格子をみせるものがあり、大正時代以降では窓はより大きいものとなる。

(伝統的建造物群の特徴)
 街道に面した町家は、立面形式の詳細に違いはあるものの、切妻造及び入母屋造、平入、二階建、大壁造という共通した外観が卓越している。また、間口の大きさや棟高の違いに関わらず、下屋庇の高さが揃っており、街道の景観に連続性と秩序を与えている。
 町並みには、江戸期から近代にかけての町家に加え、洋風の意匠を持つ建築物もあるが、伝統的町家の棟高を大きく逸脱せず、まとまりある町並みを形成している。
 吉野川沿いに面した敷地では、背面に切石や玉石などで積まれた石垣が設けられることが多く、水路、敷地境、段差などにも現れ、五條・新町の地形を示すとともに、吉野川沿いの町並みを特徴づける重要な景観を形成している。

(2) 内容

 上記の伝統的建造物群及びこれと一体をなす環境を保存し、同時にその活用を図りながら住民の生活向上に努めるものとする。保存の内容は以下のとおりとする。

ア、保存地区において伝統的建造物群の特性を維持していると認められる町家建築の主屋、付属屋、離れ座敷、土蔵、寺社建築及び近代建築等の各建築物、門、塀及び敷地を形成する伝統的な石垣などの工作物を「伝統的建造物」として特定する。

イ、保存地区を特色付けている樹木、庭園及び土地の形質等、伝統的建造物と一体をなす環境を保存するために特に必要と認められる物件を「環境物件」として特定する。

ウ、伝統的建造物の保存については主としてその外観を維持するための復原及び現状維持を内容とした「修理基準」を定め、環境物件の保存については復旧を内容とする「修理基準」を定める。(表―1)

エ、保存地区内にある伝統的建造物以外の建築物等の新築・増改築、及び環境物件の改変・移転等については次の2つの基準を定める。

【1】 保存地区内の街道沿いについては、伝統的景観を維持するための基準として「許可基準」を定める。(表―2-1)

保存地区内の吉野川沿いについては、伝統的景観を維持するための基準として「許可基準」を定める。(表―2-2)

【2】 保存地区内の街道沿いについては、伝統的景観を回復するための基準として「修景基準」を定める。(表―3-1)

保存地区内の吉野川沿いについては、伝統的景観を向上するための基準として「修景基準」を定める。(表―3-2) 

オ、以上の修理・許可・修景の3つの基準を適切に運用して、保存地区内の伝統的な町並みを維持・回復・向上していくとともに、これらの活用を図りつつ、地区の歴史的な特性に基づく生活環境の整備に努める。

カ、保存地区の保存に必要と認められるときは、修理・修景の各基準に合致した修理・復旧・修景事業等に要する経費の一部を補助することができる。

キ、以上の目的の遂行にあたっては、五條市都市整備部都市計画課と五條市教育委員会、及び保存地区内の住民、建築関係の専門家、学識経験者によって構成される保存組織が相互に十分な協議を行い、協力のもとこれを進めることとする。

3.保存地区内における伝統的建造物群を構成している建築物、その他の工作物(以下「伝統的建造物」という。)及び伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するために特に必要であると認められる物件(以下「環境物件」という。)の特定

(1) 伝統的建造物

ア、建築物については、昭和戦前以前に建てられ、五條新町の伝統的な町家建築の主屋及び付属屋、近代建築等の諸特性をよく表していると認められるもの、及び伝統的な寺社建築等の諸特性をよく表していると認められるものとする。(表―4・図―2) 

イ、工作物については、昭和戦前以前に建てられ、伝統的な工作物の諸特性をよく表していると認められる門・塀・石垣等とする。(表―5・図―3) 

(2) 環境物件

五條新町の伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するため特に必要があると認められる物件(土地及び自然物)を「環境物件」として定める。(表―6・図―4) 

4.保存地区内における伝統的建造物及び環境物件の保存整備計画

(1) 保存整備の考え方

保存地区内の伝統的建造物及び伝統的建造物と一体をなす環境物件に対して、住民はその伝統的町並み景観の保存に主体的に取り組み、市は伝統的建造物や環境物件等の修理・修景・復旧などに対して、一定の補助や技術援助をおこなうことにより歴史的風致の維持・回復・向上に努めるものとする。

(2) 保存整備計画

ア、伝統的建造物の修理については、修理基準を適切に運用して、保存地区の伝統的景観を保存する。

イ、伝統的建造物では、伝統的様式にそぐわない改造・修理が加えられている部分については、当該建造物の履歴調査の上、然るべき旧状に復するための修理を基本とする。

ウ、伝統的建造物以外の建築物及び工作物の修景にあたっては、修景基準により、保存地区の景観の維持・回復・向上を図る。

エ、環境物件の復旧にあたっては、修理基準を適切に運用して、復旧することを基本とする。

オ、環境物件以外の環境要素の修景にあたっては、保存地区の伝統的景観の維持・回復・向上を図るよう整備を進める。

カ、条件によっては、保存地区の形式を良く伝える町家等の物件を公有化し、内部までを保存して、公開・活用施設として整備することを検討する。

5. 保存地区の保存のため必要な管理施設及び設備並びに環境の整備計画

(1) 管理施設等

ア、保存地区内の管理のために、標識、説明板、案内板を地域内の必要箇所に設置する。

イ、保存地区内に管理施設を設け、情報交換と住民の交流の場としての機能を持たせる。

(2) 防災施設等

ア、保存地区内の総合的な防災計画を策定し、各種の災害に対する安全性の確保を図る。

イ、上記の防災計画に従い、必要に応じて防災施設を設置するとともに、火災等の早期発見、及び通報、初期消火が確実となるよう、防火演習や訓練を常時計画的におこなう。

ウ、地震、火災、風水害等の各種災害に対する基本的意識の向上を図るとともに火災予防の啓発をおこなう。

エ、自衛消防隊の装備を充実し、育成を図るとともに初期消火の訓練を計画的におこない、初動体制に万全を期す。

オ、保存地区における建造物の修理及び修景工事の際に、構造補強に努める。

カ、保存地区内の自主的防災活動を促進するため「五條新町地区町なみ保存会」の育成を図る。

(3) 環境の整備等

ア、保存地区外に居住者の所有する車の駐車施設の計画的な整備誘導を進める。

イ、町並みに面した看板等、アンテナ、空調設備等の設置について、保存地区の歴史的風致を損なわないよう整備誘導を進める。

ウ、保存地区を取り巻く周辺地区は、歴史的経緯を踏まえ、保存地区の歴史的風致を損なわないよう整備を進める。

6.保存地区内における伝統的建造物及び伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するため特に必要と認められる助成措置等

(1) 経費の補助

保存整備計画に基づく事業に対し、別に定める「五條市伝統的建造物群保存地区保存事業費補助金交付要綱」に基づき、必要な経費の補助をおこなう。

ア、伝統的建造物の修理事業のうち、伝統的建造物の特性を維持するための修理に要する経費のうち、修理基準に従った修理に要する経費。なお、伝統的建造物の保存上、構造耐力上必要な部分の修理に要すると認められる場合はこれを含めることができる。

イ、伝統的建造物以外の建築物及び工作物の新築増築、改築、移転又は修繕、模様替え若しくは色彩の変更で、保存地区の特色を維持するため、特に必要と認められるものに要する経費のうち、修景基準に従った修景に要する経費。

ウ、保存地区の環境物件の復旧や保全又は、これに類する物件の修景事業のうち、保存地区の歴史的風致を維持するために必要があると認められる事業に要する経費。

エ、所有者又は管理者が伝統的建造物の保存のために設置する自動火災警報装置(消防法により義務設置となる住宅用火災警報設備を除く)に要する経費。

オ、所有者又は管理者が伝統的建造物の保存のために設置する防火設備、防火対策及び構造補強に要する経費。

カ、保存地区内の住民で組織された「五條新町地区町なみ保存会」に対して、その地区内の保存管理に要する経費。

(2) 物資の提供、斡旋

市は必要に応じて修理修景事業、又は管理のために要する物資の提供、あるいは斡旋をおこなうことができる。

(3) 資金の融資

市は保存のために必要な資金に公的融資機関等の融資の利用、また、利子補給、低利融資をおこなうことができる。

(4) 技術的支援

市は保存地区内の歴史的風致を維持、回復、向上するため、修理、復旧、修景等にかかわる専門家による設計相談その他の必要な技術的支援をおこなうことができる。

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この記事に関するお問い合わせ先

教育委員会事務局 文化財課 町並保存整備室
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更新日:2019年06月27日